〜奇跡の植物が示す未来への道〜
理事 佐藤 均(SATO HITOSHI)
東京大学薬学部卒 薬学博士
静岡県立大学薬学系大学院客員教授
タイ王国立マヒドン大学客員教授
日本ヘンプ協会 理事長

約280万年前、地球はひとつの植物を中央アジアの大地に芽吹かせた。
その名はCannabis sativa L.――人類はこれを「カナビス」、日本では「麻(お)」と呼んだ。
人類の文明が始まる遥か以前に、麻は中央アジアの大地に根を張り、風に揺れ、静かにその時を待ち続けてきた。地球の約46億年の膨大な歴史において人類は最後の1ページに登場したに過ぎないが、人類の古代文明において麻は神聖な植物として崇められるのみならず、画布や繊維などを得る目的で実用に供されていた。英語 canvasの語源は俗ラテン語 cannapaceus = 「麻に由来するもの」であり、さらにギリシャ語で麻(cannabis)を意味する Κάνναβιςに遡る。
しかし、今や、人類の活動によって地球は危機に瀕している。化石燃料の大量消費が大気を汚し、森林の乱伐が土壌を枯らし、プラスチックの氾濫が海を蝕む。近代人類の活動に基づいた大量生産・消費は、人類自らの存続を脅かすほどの温暖化、資源枯渇、環境破壊をもたらした。このような時代に、麻が再び人類の前に姿を現したことは、果たして偶然であろうか。
向精神作用がなく産業活用可能な麻は、特に「ヘンプ」と呼ばれる。ヘンプは農薬なしで驚異的な速度で育ち、大気中のCO₂を他の植物の数倍の速度で吸収し、土壌を浄化し(phytoremediation)、石油や人工素材を生物分解可能な物質に代替する能力を有している(ヘンプクリート、ヘンプ・プラスチック、ヘンプ・バッテリーなど)。このように新たな活用を目指して、最近の欧米社会では麻関連産業の発展が著しい。繊維・食糧・燃料・建材・医薬の素材――ひとつの植物がこれほどまでに多様な恩恵を人類に与える例は、地球の歴史においてほかに類を見ないのではないだろうか。それゆえに、食物問題や環境問題を解決できる可能性を秘めた植物―ヘンプは、「奇跡の植物」と認識されている。
そういう意味で、280万年もの歳月を超えて母なる地球 “Mother Earth” が守ってくれた麻は、人類にとって「救いの植物」といえよう。麻の産業活用とは、単なる経済活動にとどまらず、「地球の意志(Earth’s Will)」の実践に他ならない。特に、ヘンプから抽出される植物性カンナビノイドの1つであるカンナビジオール (CBD)は、現代社会が抱える種々の疾患を改善できる稀有の天然物質として世界中で注目されている。今こそ人類は、この奇跡の植物の恵みを享受して、持続可能な未来〜地球再生への道〜を歩み始めるべき時ではないだろうか。本友好協会では、その設立目的のひとつとして、ヘンプの栽培、加工、抽出などに関する研究開発を掲げている。
参考資料:
- https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/12/increasing-medical-marijuana-and-cannabidiol-research/
- https://www.ers.usda.gov/amber-waves/2020/june/hope-for-hemp-new-opportunities-and-challenges-for-an-old-crop
- Kaminski KP, Hoeng J, Goffman F, Schlage WK, Latino D. Opportunities, Challenges, and Scientific Progress in Hemp Crops. Molecules. 2024;29(10):2397. Published 2024 May 20. doi:10.3390/molecules29102397
- https://www.forbes.com/councils/forbestechcouncil/2018/10/23/the-age-of-hemp-global-advanced-industrial-applications/
- https://note.com/the_hemp_age/n/n94c2ee79158a